書評

【書評】プロ競技者の考え方は僕らに多くのヒントを与えてくれる「明日は、今日より強くなる~女流プロ雀士 二階堂姉妹の流儀」(二階堂瑠美・二階堂亜樹)

2016/07/27

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麻雀や将棋は単なる趣味を超えて人生に役立つと思っている@odaiji さん曰く、。

一般的な認識としては、将棋や囲碁は実力のみがモノを言うゲームで、麻雀は運がモノを言うゲームと思われていますよね。でも、将棋には「指運」という言葉もあるし、羽生善治前名人も何かの折に「運が良かった」といったコメントを残すことがあります。麻雀は運任せのゲームではなく、自分の手牌や自分・相手の捨て牌、捨てた順序などあらゆる情報から上がりへの最短距離と相手への振り込みを防ぐ防御を考える、想像力と可能性の素晴らしさを比べるゲームです。

そんな麻雀界で2000年ごろから「美人麻雀姉妹プロ」として麻雀界のみならず他の世界でも活躍する二階堂瑠美さん・亜樹さんが、このたび自叙伝と勝負論を交えた本を出版されました。

前半が妹の二階堂亜樹さん、後半が姉の瑠美さんが語る構成になっています。

二人の麻雀に対する考え方が人生を豊かに生きる示唆に富んでいることもあり、お勧めできる本です。気づいたことをブログに書かせていただきます。

自分以外の目線になって悩みを解決する(二階堂亜樹)

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小さい頃から麻雀に親しむ環境にあった亜樹さんは、麻雀の安藤満プロに出会い、麻雀を本格的に教わるようになります。それまで自分が上がることだけを考えていた亜樹さんは、そこで周りを見ることを知ったそうです。

麻雀は4人で打つゲーム(3人麻雀もありますが、まあここでは4人で打つものとして話を進めます)。単純に考えれば、上がれる確率は1/4、つまり25%。全員が上がれない「流局」もあるため、実際は20%そこそこしか上がれないゲームとなるでしょう。そうなると、自分が上がることよりも相手の上がりを阻止する、相手に振り込まないようにする、といった「人ありき」の考え方がとても大切になってくるんですよね。

その考え方の変化から亜樹さんは、「木を見て森を見ず」から、森が見られる人に変わっていきました。

同時に、相手の思考を意識するようになってから、正解は一つでなく複数あり得ると感じるようになっていったんですね。

そのことが、本文中ではこのように語られています。

悩みの多くは、往々にして自分中心によるものがほとんど。物事の捉え方や見え方の角度を、相手中心に変えられたら、解決の糸口が見えてくる可能性は高い。

まわりを見られるようになり、選択肢はひとつではないことに気づけば、確実にステップアップできる。

こういう考え方に若くからたどり着けているのは、麻雀という勝負の世界に身を置いているからこそ。僕も将棋で似たようなことを感じて育ってきましたが、他人が上がることの方が多い麻雀というゲームだからこそ、たどり着くのが早かったと思います。

失敗は成長の道しるべ(二階堂亜樹)

当時、史上最年少のプロ雀士として話題をあつめた亜樹さんも、すでにプロとして中堅の域。70歳になっても現役でいられる麻雀という競技では30代半ばの亜樹さんはまだまだ「若い中堅」ですけれども、自身の一番の成長を「失敗や敗北は恥ずかしいものではなく、気づきのチャンスだと思えるようになったこと」と言います。

ただ失敗しているだけではダメだけれど、気づきの素になる失敗ならいいんですね。

こんなこと書いている啓発書はいろいろあると思いますが、これだけ書いてあっても「ではどうやったら気づけるようになるのか」が僕たちは分からないものです。

亜樹さんは気づけるようになるためのポイントを教えてくれます。

気づくためには何をすればいいのか?
そのためには、気づける体質であることが大切になる。気づける体質をつくるにはどうしたらいいのか。私は次の2点を意識している。

・素直であること
・我慢強いこと

素直であるには、まず受け入れること。
受け入れるためには「そんなもの必要ないよ」という拒絶の気持ちだけではなく、自分に合うかどうか試してみる我慢強さが大切、ということのようです。

気づける体質になっていければ、目標に向かう中での失敗が失敗ではなくなり、結果だけでなくプロセスが活きてくる、ということなんですね。

常識は疑う(二階堂瑠美)

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僕は、女流雀士の中で、二階堂瑠美さんが大好きなんです。大ファン。この方のキャッチフレーズが「天衣無縫」なんですけれど、まさにその言葉通り、天真爛漫な素敵な女性です。

その瑠美さんが、さすがプロの勝負師といった一言をぶつけてくれました。

自らをネガティブ思考と言う瑠美さんは

「”偽りのポジティブ思考”が嫌い」

と言います。この言葉も単純に片付けていません。

”真のポジティブ思考”になるためには、様々な角度からネガティブつぶしを行う

と仰るんですね。想定されるリスクを想定し、100%は無理でも80%、90%とできるだけ取り除いていき、残った10%のリスクに対してなんとかなるさ、と取り組むんだそうです。

同様なことを仰った冒険家・三浦雄一郎さんの言葉も引用しつつ、

「大丈夫だよ。きっとうまくいくよ」という言葉を「大丈夫。うまくいく」になるまで突き詰めてから、初めて前向きに捉えるんだそうです。

準備するプロの思考ですね。僕も失敗したくないプロジェクトなんかは

「いやいや、こんなこと実際は起こらないでしょ?」

と思うことまで想定して準備したりね。

あと、会議などでの質疑応答を想定するときも

「こんな質問出るわけないよ!」

という所まで想定して練習したりね。

ま、それでも予想外の質問が出たりするんだけれど、その質問もそれ以外の準備がしっかりしているから乗り越えられたりするものです。

考え抜く(二階堂瑠美)

瑠美さんは、選択肢が多い局面、役割の多い場面が好きなんだそうです。より多くの選択肢から絞り込む方が決断の根拠が強くなるからなんですって。

確かに選択肢が多い時って、優先にしたり、条件付きでプライオリティを下げたり、自分の頭の中がぶんぶん回っていきます。なるほど、そういう発想をして、そういう状況を選択することによって「考え抜く」「決断の根拠を強く」することができるんですね。

麻雀で言うと、役割が豊かになるのは終盤を3位で迎えた時なんですって。

トップと自分の点が近ければ

・誰から何点上がればいいか
・ツモなら何点以上で上があればいいか

ということも考えますし、トップとさがありすぎた場合にはトップ争いを邪魔しない、という打ち方を選択する可能性があるんだそうです。

フラットな状態ではないゲーム終盤には、対局者それぞれに役割がある。
役割が多い方がワクワクする。
終盤の3番手にはそれがある

ということに集約されています。

逆に、選択肢が狭くなってしまう例の一つが「リーチ」です。リーチは「あとひとつ揃えば上がりだよ!」ということを宣言することで得点が上がりますが、その代わりに手を変えることが出来なくなる、という役です。

でも捉え方によっては、思考停止を意味する」

と瑠美さんは言います。

考えることに蓋ができちゃう。上がれればOK。振り込んでも仕方無い。言い訳にも使われるリーチですが、前後の文脈から見ても、瑠美さんはあんまり好きではなさそうです。

僕もフリーになってから、場面場面で管理者的役割をしたり、プレイヤー的役割をしたり、いろいろ立場を考えることも出てきました。会社員時代には自分のポジションの線引きがあって、それを超えようと何かすると、いろいろ周りから言われることが多くなるんですよね。

役割が広がったことは選択肢の広さにも繋がり、そこがフリーランスの面白さであると言えなくもないのかな。

そんなところがとても共感できます。

ゲームとして優れている麻雀

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麻雀界で苦労した二人だけあって、瑠美さんのパートに書かれた

「ギャンブルイメージからの脱却」

という章がとても重く感じられました。麻雀って、ゲームとしてはすこぶる優れたものだと思うんですよね。でも、そもそもギャンブルとしての色が濃かったことや、なんか悪い人が決着を付けるために麻雀で勝負、いかさま、みたいなイメージから、なかなか「競技」としての評価がされませんでした。

でもね。

テレビやネットで見てほしいんですよ。プロの麻雀対局。

あの初形からあの最終形をイメージしたの?

親のあのリーチで、なぜこの牌を止められるの?

こんな所に目を向けられるようになると、麻雀プロの想像力、危機察知能力、流れを掴む能力・・・。ビックリすることが沢山出てきます。

それだけすごい麻雀というゲームですが、瑠美さん自身もギャンブルのイメージからの脱却は簡単ではない、と思っているそうです。

そこで必要なのは、数団体に別れてしまっているプロのルール統一や、称号や名誉といったインセンティブで喜べる麻雀の仕組みの確立、麻雀自体の「遊ぶのは難しい」というイメージの脱却など、様々な課題だそうです。

華やかな女性プロは往々にして普及面での期待をされるものですが、瑠美さんはそれを理解した上で自分にもゲームにも誠実でありたいと述べています。

こういった視野の広さ、単純にプレイヤーとして技量を伸ばすだけではなく業界全体を考えられるようになるというのが、人間の大きな成長の一つです。そこに気づけるか。気づける人は、さらに大きな成長が待っています。

こうやって書いている「ブログ」の世界にも「プロブロガー」と呼ばれている人、自称している人がいます。

そういったプロブロガーのみなさんがブログ界全体を考えて行動できるようになれば、ブログの世界ってもっと良くなるんじゃないかなと思っています。

まとめ:性格は違うが信頼しあう二人

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二階堂姉妹が麻雀界に現れた時、麻雀界は完全なる男社会でした。

今は女性プロも増え、アマチュアの麻雀大会に女性プロが華を添える、なんてことも良く行われます。

その変化は、多分人気・実力ともに努力を怠らなかった二階堂姉妹が中心的役割を果たして実現させたものだと思います。

亜樹さんは姉妹の麻雀を、亜樹さん自身は確率などを重視するデジタル派、瑠美さんを夢や理想・手役を追うアナログ派、と表現しました。

瑠美さんは自分の麻雀を、数学的麻雀と文学的麻雀に分けるなら文学的麻雀だ、と書いています。行間には「亜樹ちゃんは数学的麻雀かな?」って書いてあった気がしてます。

雀風が違い、師匠も対照的な二人ですが、ほぼ同時にプロになったこともあって支え合いながら女性プロの黎明期を乗り切ってきたのだと思います。

二階堂姉妹ファンのみならず、人生に役立つ思考を求める方も読んだら良い本

本書には二人の生い立ち、思春期の生活、麻雀との出会いから勝負に大切ないろいろまで沢山書かれています。ですが、その根本として、辛いときも二人で支え合ってこれたことはとても大きかったことだなあと思いました。

麻雀界のアイドルでもあり将来を考える人でもあり、もちろんプロフェッショナルなプレイヤーでもある二階堂姉妹。

この二人の生い立ちからプロ意識、人生にも役立つ様々な示唆を得られるこの本、強くお勧めです。

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