書評

怖いのは無敵の人だけじゃないんだね……書評『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(山口真一著)

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以前、主催したブロガーイベント「2019 ブロガーズフェスティバル」で株式会社MiTERUのおおつねまさふみさんに炎上についての講演をお願いしました。

お話いただいた際、印象に残った内容の一つは「炎上で誰かを責める人の大部分は『正義感を持った普通の人』」ということでした。

それまで、匿名で書き込みができるネット環境で攻撃的な書き込みをする人は、そこでしか外界のつながりがない人だと思っていたんです。よくテレビドラマなんかに出てくるステレオタイプなそれ、です。

そうじゃないんだというお話を聞いてビックリし、その後のネットの炎上を自分なりに観察してみるとそれらしいことがわかってきました。そして2020年9月に発売になった本書を読んで、その裏付けを得られたとともに、今の息苦しいSNSをどう泳ぐかのヒントを頂いたような気がします。

正義を振りかざす「極端な人」の正体の章立て

著者は国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授で経済学の博士、ネットメディイア論なども研究しておられ、「あさイチ」「クローズアップ現代+」「日本経済新聞」などメディアへの露出も様々。

炎上とクチコミの経済学

ネット炎上の研究

など、関連著書もあります。

本書は僕がKindleで購入したときには836円でした。

以下、目次構成です。

はじめに
第1章 ネットに「極端な人」があふれる理由
第2章 ネットだけでない「極端な人」
第3章 「極端な人」の正体
第4章 「極端な人」が力を持つ社会でどう対処するか
第5章 「極端な人」にならないための5箇条
あとがき

冒頭で書いた「正義感を持った普通の人」が、本書では「極端な人」と表現されています。

「極端な人」の発言に辟易していた

SNSの声は、極端な意見ほど声が大きいなあと思っていまして、それが快くないということも割とあるんですよね。

僕はフリーライターとかブロガーとしてSNSを使っていますけれど、フリーランス論でいえばサラリーマンや学歴社会をことさら強く否定するような人がガンガン発信しているんです。

でもって、そんなことないよって人はとくに目立つ発言をしないんですよね。相手にしていないのかな。興味がないのかな。そういえば僕も「そんな意見はバカバカしい」なんて思っちゃうと、それはことさらSNSで発信するものでも無いと思っちゃいます。どうしてこんな状況になっているんでしょうね。

こうした理由が検証され説明されています。納得感ありました。

過去の有名な事例を解説

2020年は有名人の死が話題になりました。その報道の仕方まで大きな議論になったのが印象的でした。こうしたニュースでほぼ必ずコメントをされるのがお笑いタレントのスマイリーキクチさん。

かれがどうしてこれだけコメントを求められる存在になったのかという誹謗中傷の話。

そして、有名無名に関わらず事実無根の嘘情報がネットを駆け巡り被害者がどれだけ苦労しているか。

そんな例が紹介されています。ネットでも見ることができる情報ではありますが断片的でまとまった知識として整理するのに手間暇がかかります。本書の山口氏の説明は当然ながら整理されており、納得行くものがありました。

ある節の締めくくりにある言葉

その人に対して人格を否定するような誹謗中傷を浴びせかけ、個人情報を拡散する行為は「表現の自由」ではない。

山口 真一. 正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書) (Kindle の位置No.1010-1011). 光文社. Kindle 版. より

は自分がそうならないように気をつけ続けるとともに、情報発信をこれからしようという後輩には必ず伝えて行きたい文章です。

クレームを言う人の社会的地位と有効なルール変更

ドラマ・映画・マンガ・アニメで、匿名掲示板で誹謗中傷を書く人は割とパターンが決まっています。あのステレオタイプ、良くないなあと思っているんですが、本書に書かれている誹謗中傷を書く人・いいがかりをつける人・過度なクレームをする人ってそういう典型的な人とは違うんですよね。

どんな人が、なぜこうした行動を起こしているかが調査結果とともに書かれていて、ひとつ間違えば自分もそうなりかねん!という危機感もありました。

普段笑顔で挨拶しているおとなりさんがそうであっても不思議はないなあと。いやおとなりさんを疑ってはいませんけれど、決して不思議じゃないですよ。

そして、安易な言論統制やただの実名制度へのルール変更では解決しないであろうことも根拠を述べて説明されています。

この記事を書いている現在、世の中では誹謗中傷をネットで書かれた著名人が名誉毀損で訴える、もしくは訴えますよと通告している例をちらほら見かけます。

でも、誹謗中傷に対する情報開示請求から慰謝料の請求を一般人が訴訟を起こしてやろうとすると

  • 情報を得るための訴訟にわりとお金がかかる
  • 仮に慰謝料を請求できるところまで進んだとしても現実にお金が払われる保証がない

というところでリスクがあるんですよね。言われるだけ損になっている、泣き寝入りするケースは少なくないだろうと推察します。

こんな世の中はポイズンなわけですが、その毒の沼でどうやって泳いでいくかというテーマについても語られています。あたまでっかちな学者さんが統計データを元に上から目線で書く、のではなく、地に足のついた説明だなと好感を持てました。

僕たちが「極端な人」にならないために

当たり前ですが、ネット世界が常識的な範囲の批判に収まり平和になるためには、僕たちがいかに「極端な人」にならないかが大切です。

極端な人にならないためのポイントも記されていることもあり、読むことによって暗雲だけ立ち込めていたSNSの極端な書き込みの毒沼も、浄化もしくは、毒沼からも花を咲かせられる可能性があるかなあと思える一冊でした。

ポイントの説明の中に

日本では、欧米に比べてディスカッションの練習をする機会が極めて少ないと言われる。そのため、残念ながら「相手を尊重して批判する」ということになれていない人も多い。

山口 真一. 正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書) (Kindle の位置No.1951-1953). 光文社. Kindle 版.

とあるところだけは、

では、ディスカッション慣れしていない日本は慣れている諸外国に比べて炎上事例や極端な人が多いものなの?

という疑問が残りました。どこの国だって軽々しく極端な意見を言うやつは多いと思ってるし、ディスカッションを学んだかどうかと直接的関係がどこまであるかはわからないんですよねえ。

ここの解説をなにかの機会に聞くことができればいいなあと思っています。

ともあれ本書を読んで現代の炎上事例とそのバックグラウンドを知ることができ、ブロガー・フリーライターという情報発信者としては

自分がふむべきブレーキの整備が出来た

というような印象を持っています。もとから炎上嫌いだから気をつけてはいるけれど、時代背景を考えると同じ動作でも確実さが増します。

現代のSNSに辟易している人、一読の価値ありと思いますよ。

正義を押し付けるだけの不寛容な社会は嫌だよ。みんな書き込む前にちょっと深呼吸しようよ。

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