プロレス/格闘技 書評

なぜプロレスが再び黄金期を迎えているのか-「プロレスという生き方」(三田佐代子著) #プロ生き

2016/05/10

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プロレスが大好きな@odaiji さん曰く、。

1990年代に総合格闘技がブームになってから、プロレスラーが総合格闘家に惨敗したりしてプロレスの人気は凋落し、ファンの僕が見ていても斜陽だなあ・・・というのは少なからず見えていました。

でも今、プロレスは再び人気が出始めています。業界最大手の新日本プロレスは東京ドームやヤフオクドームといったドーム大会を成功させていますし、中堅団体だって観客数2000人規模の後楽園ホール大会をパシパシ成功させています。

傾いた会社を立て直した社長とかCEOとかがフォーカスされるのは非常にわかりやすい物語です。

しかし、傾いたプロレス人気を立て直すには、その中の1団体の頑張りだけではどうしようもないんですよね。業界のあらゆる所に、いわゆる「中興の祖」みたいな人が出てこないといけないわけです。

この20年間、キャスター・ファンという立場から最も現場でプロレスを見ている一人・三田佐代子さんが、このところ再興したプロレス人気について、どのような団体のどのような選手・選手以外の人が立役者となっているのかを伝えた本が2016年5月9日に発売になりました。三田さんはメジャーだんたいからマイナー団体までまんべんなくプロレスを見ていますが、単にプロレス番組のキャスターだからというだけではなく、一人の人間としてプロレスが大好きなんだと思います。

その三田さんが厳選した「中興の祖」10人の紹介を読みながら、一人の人間が頑張って業界を盛り上げること、一人では出来ないけれど周りを巻き込んでいくこと、業界の常識や枠にとらわれずに動き回ることによって新たなムーブメントを起こすこと、そんな様々な「業界の発展法」について考えさせられた良書だと思いました。

プロレスファン以外にも読んでもらいたいなあ。

業界を支え、引っ張る10人

本書には現在再興しているプロレス業界を再燃させた立役者の内、三田さんが厳選した10人が登場しています。

中邑真輔選手(新日本プロレス→WWE)
飯伏幸太選手(DDT・新日本プロレス→飯伏プロレス研究所所長)
高木三四郎選手(DDT社長)
登坂栄児氏(大日本プロレス社長)
丸藤正道選手(プロレスリングNOAH副社長)
里村明衣子選手(センダイガールズプロレスリング社長)
さくらえみ選手(我闘雲舞代表)
和田京平レフリー(全日本プロレスほか)
橋本和樹選手(大日本プロレス)
棚橋弘至選手(新日本プロレス)

多分他にももっと取りあげたい人が居ると思うんですよ。でもこの10人、紹介されて、読んで、納得と思いました。

老舗団体の復興で担ったこと

WWE | スーパースター | ナカムラ シンスケ

棚橋 弘至|選手名鑑|DataBase|新日本プロレスリング

中邑選手と棚橋選手は、総合格闘技にリング上で敗れ人気が凋落した時代の新日本プロレスを支え、再び黄金期を取り戻した立役者です。

棚橋選手は大きな会場でも小さな会場でも常に100%の全力ファイト、100%のファンサービス、100%の営業活動をこなしていきます。地元のラジオやSNSでの露出も積極的に行い、プロレスを積極的にアピールしていきます。それまで、営業活動は主にスタッフの仕事で、選手がおこなうことは余り無かったそうなんですね。

それを人気が出て、チャンピオンになっても棚橋選手はやりつづけました。やがてそのファンを大切にする気持ちは、多くの選手に伝搬していきます。

中邑選手は数度の海外武者修行(海外の団体にある程度長期間レンタル移籍のような形で参戦し、様々な経験を積んで来る)を経験し、彼独自の進化・プロレスラーとしての魅せ方を進化させていくことによってプロレスファンを取り戻していきました。

その間、新日本プロレスはアントニオ猪木さんが50%を超える株を持っていたのが上場企業などへ譲渡され、経営の健全化、企業らしいビジネス展開を考えることによってエンターテイメント企業としての進化が進んで行きます。

企業としての健全な進化と棚橋・中邑両選手をはじめとした各選手のプロレスに関するアピールが、業界トップである新日本プロレスの再興を推し進めていったといえるでしょう。

中邑選手、デビュー直後は足元が定まっていないなあ、と思っていましたが、今年のWWE移籍で、若い内の様々な経験がすべて今に結びついているなあ、といった印象です。沢山の伏線を張った小説が一気に収束に向かっていくように、中邑選手の収束っぷりが見ていて爽快です。

棚橋選手は団体のために無骨に明るく動いているのが立派だなあと。キャラやコスチュームは格好良い系なのですが、技は結構シブくて昔ながらのファンにも好かれるんじゃないかと思ったり。

インディー団体の勃興

その昔、プロレスといえば「全日本プロレス」と「新日本プロレス」の二つだけでした。厳密には他にもあったかも知れませんが、テレビに出たり有名選手がいたのは、この二つの団体だったのです。

その後、この2団体を辞めた選手が新しい団体を作っていったりして、プロレスの多団体化が進んでいくことになります。全日本プロレス出身の大仁田厚さんがFMWを立ち上げたり、グレート小鹿選手がWARという団体を経由して大日本プロレスを立ち上げたり。

プロレス界は新日本プロレス・全日本プロレス・プロレスリングNOAHを「メジャー」、それ以外の団体を「インディー」とまとめるのが主立った考え方になりました(ここは正確な線引きがないので、私の理解ということで留めます)。

最初の頃はマイナーな存在であったり、下手をするとげてもの扱いされてしまいそうだったインディー団体からも、次々と素晴らしい選手が出てきます。3人だけ簡単に紹介しましょう。

飯伏幸太


※上の動画は何しているかといえば、「飯伏選手がビニール人形に投げられている」シーンです。ビニール人形が生きているかのように見えませんか?この選手の技量を示す一つかと。

その代表の一人といっても良いのが飯伏幸太選手です。彼はイケメン、筋肉質な格好良いボディをしていて、華麗な技も披露しつつパワーファイターとも五分にやり合うほどの力持ちですが、なんと言っても彼の魅力は、公園やキャンプ場でのプロレスなどで、施設を上手に利用してプロレス技を決めてみせる(はちゃめちゃさ×運動神経)や、次に何をしでかすか分からない破天荒さです。

飯伏選手ファンの女性は、彼のお母さん・お姉さんになったような気持ちで応援してしまうのだそう。

DDTという当時は無名に近い団体に入ってデビューした飯伏選手は、史上初めてDDTと新日本プロレスの両団体と同時に契約する選手となり、今は独自の飯伏プロレス研究所を立ち上げました。これからの活躍に期待したいところです。

僕はこの10年くらい、飯伏選手と、大日本プロレスの関本大介選手をずっと応援していました。飯伏選手は新日本での活躍からの独立、関本選手は今春のチャンピオン・カーニバル制覇と、才能と努力の結実を嬉しく思っています。

高木三四郎

高木三四郎 | DDTプロレスリング公式サイト

また、飯伏選手を見いだしたDDTの高木三四郎社長は学生時代は六本木のクラブで2000人規模のイベントを主催してしまうような「企画屋」です。現在もプロレス団体の経営だけでなく、飲食店などの経営も行う事でプロレスラーのキャリアに目を配り、身体の大きさだけで無く本人の良い所を見つけ、引き出すことで光らせる達人でもあります。

DDTは先ほど述べた「全日本プロレス」「新日本プロレス」の関係者とはまったくゆかりのない人たちが興した団体。

団体設立当初はプロレスの専門誌にすら取り上げてもらえなかったそうです。そこで高木社長はコギャルなどに声をかけ、コギャルも楽しめるプロレスとしてワイドショーや深夜番組に取り上げてもらえる工夫をしたそう。

夏に東京ドーム近くでやっている「ビアガーデンプロレス」や、プロレスの煽りを映像ではなくパワーポイントでプレゼンするという形を採用したのも、この高木社長の団体です。プロレスを知らない人に楽しんでもらえる工夫を随所にこらしてくれました。

大学のプロレスサークルが興行を行う「学生プロレス」のスター・男色ディーノ選手をプロレスの世界に引っ張ってきたのも高木社長。単純なプロレスラー・プロレス団体の社長だと思わない方が良い、というのがこの高木社長です。その他のすごい所はぜひ本を手にとってご覧ください。

高木社長、初めて見たときは、スティーブ・オースチンが大好きなプロレスラーなんだな・・・と。
ただ、見ている内に、アイディア出しとか、他のレスラーからのいじられっぷりとか、そういう懐の深さ・器の大きさをどんどん感じるようになっていったんですよね。

さくらえみ

「アクション体操」と名付けたプロレス教室から女子レスラーを輩出したり、とつぜんタイを訪れてタイで女子プロレス団体を立ち上げたりしてしまう、さくらえみ選手。プロレスといえば四角に3本張られたロープを思い出す人もいるかもしれませんが、ロープのないプロレス興業を定着させたのもさくら選手です。

無観客の道場で試合を行い、それをUstreamで配信するという試みもしていました。

そんな「革命児」は何か始めるたびに業界の反発を受けていたものですが、それをやり抜く力を持っているのがさくら選手なんですね。

アイディアを出し、理解者を得、巻き込む。

この手順って新しい子をする場合には何でも必要だと思うのですけれど、それを忠実に、しかも自然に実行しているのがさくら選手です。

人々を元気にさせるプロレス

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2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震。ここでも被災地でプロレスラーはボランティア活動をしたり、元気づけるためのボランティア興業を開催したりしています。プロレスには他のスポーツにない、個人個人の感情を爆発させる場があり、また、選手の個性で笑いを取れるシーンも数多くあります。観戦したファンに元気を与えやすいということがあるのかもしれません。

著者の三田さんは「おわりに」の中で、東日本大震災とプロレスラーの関わりについて書かれています。熊本地震は本書に手を加えられなくなってから発生したと思われ記述がされていませんでしたが、東北を主戦場としているプロレス団体、自衛隊出身のプロレスラー、チャリティ興業を行った団体の先乗り選手など、実に多くの選手の話を聞いたりエピソードを集めたりされているのが良く分かります。また、それだけエピソードが多い業界なのがプロレスなのでしょう。

プロレスが最も被災地に貢献したという訳ではないけれど、プロレスの力で元気になった人も大勢います。

そのプロレスが再び黄金期を迎えるに至ったこの10年~20年、プロレスキャスターとしてメジャー団体もドインディー団体も取材し続けた三田さんのチョイスと選手のエピソードや考え方、一読の価値があると思います。

これ読んで僕も元気になりました。ショアッ!

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