書評

【しょせん他人事ですから】ネットの誹謗中傷に悩む人、悩む可能性がある人が読むべきマンガ

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何年か前、ネットで誹謗中傷に遭ったことがありました。もし当時、今4巻まで出ている漫画「しょせん他人事(ひとごと)ですから」(富士屋カツヒト)を読むことができていたら、その際の対応方法だけでなく、被害者がこういう心持ちになるからこう対策しよう、といった心のケアまで出来ていたような気がします。当時はとても心を痛めましたからね。

しょせん他人事ですから」は、誹謗中傷をした人が罰せられるだけの単純な勧善懲悪な物語でもなく、誹謗中傷をした人が慰謝料を取れてよかったね!という「理屈はそうでも実際そうじゃないよね」という内容で終わることもなく、現代日本の誹謗中傷をリアルに取材した上での内容になっているなあとうなずきたくなるエピソードばかり。SNSの世界に生きているすべての人に、オススメです。

ネットの誹謗中傷に詳しい弁護士の対応がリアルに参考になる

誹謗中傷の被害者は、相手を訴えるにしても訴える相手がわかりません。これが苦痛の始まりなんです。

Twitterで誹謗中傷してくる人も、YouTubeのLiveを荒らす人も、本名なんて名乗りませんからね。そこで、相手を突き止めるための文書を作成したり、裁判をしたりする必要が出てきます。そこで、弁護士の登場です。

本作は被害者側・加害者側から相談を受けた弁護士がどのような対応をするのかを物語の形で紹介しつつ、裁判の判決などが出た「その後」の部分までを描いています。

最初の物語は節約術をブログに書くことで書籍出版まで行えた人気主婦ブロガーが、ある日人妻風俗で働いているという事実無根の書き込みをされたことに対する訴えでした。

意外な犯人、リアルな追い込まれ方

この書き込みの犯人は、誹謗中傷の事件をあまり追ったことのない人にとっては意外な人かもしれません。そして、その犯人はその悪い行いを通じて、あるいは判決後の慰謝料の支払いを通じて徐々に追い込まれていきます。

そしてその結果を知った依頼者の感情はどのようなものだったのか。慰謝料を支払われて、お金が入った!で終わらないところがこの作品のリアルで素晴らしいところです。依頼者の家族、誹謗中傷をした人の家族がどうか、まで触れられています。

「しょせん他人事ですから」一巻より

こういった一連の流れを、きちっと取材をして書かれているのだと思います。僕の場合は裁判まで行かず、マンガ内に書かれていたある段階で止めた(そこから攻撃が止んだ)のですが、誹謗中傷が止んだからといって、僕の心や記憶からその事実が無くなるわけではありません。慰謝料の決着がついた後の被害者は、家族が気軽に解決を喜ぶ中で、上記のような複雑な表情で思いを吐露しますが、僕もそういう経験をしていたからこそ、このコマを涙ぐんで見入ってしまいました。

繰り返される誹謗中傷

ネットで誹謗中傷をしてしまう人は

  • 軽い気持ちで
  • 妙な正義感を持ち
  • 言葉を受け取った相手がどう思うかをあまり深く考えず
  • 全世界にその言葉が届くとは深く考えず
  • ことの真偽を調べもせずに書き込んだり
  • 悪口を書いたりする

人たちです。

こうした人がごく少数で、繰り返し書き込むことがないなら、まあ拡散もしないし影響もないしで、リアルな世界でいえば道路につばを吐く位の迷惑で済んでいます。ですが、誹謗中傷をしちゃう人たちは結果的に集団で行動することになってしまいます。ある一つのニュースについて、関係者と何の面識もない人がこれ見よがしに叱責するような書き込みをしているのを読んだことがある人は少なくないでしょう。

こうした人たちの書き込みで自ら命を絶つ人が出ているにもかかわらず、誹謗中傷が繰り返される現実があることから、誹謗中傷のコメントを誰が匿名のサイトに書き込みをしたか突き止めやすくなるような法律改正が行われています(改正プロバイダ責任法)。

こうした中傷する側の人間の心情・連載中に発生した法律の変更(改正プロバイダ責任法)にもていねいに触れている作品です。

知っていることで心持ちが変わる

まだ誹謗中傷を受けたことがない、という人でも、ネットを使って情報発信をしている以上、いつかこうした被害を受けてしまう可能性があります。また、自分のちょっとした発言が誹謗中傷につながってしまう可能性もあります。

誹謗中傷を受けたとき、一連の流れの知識があると、むやみやたらにうろたえる可能性は低くなるでしょう。病気に例えれば、体調が悪くなっても、その原因がわかっているような状態です。もちろん体調は悪いのですが、この薬で快方に向かうとか、しばらく休めば楽になる、など対処がわかっている状態になります。

一連の流れがわからないと、原因不明の体調不良のような状態になってしまいます。いつ治るのか、これから快方に向かうのか、さらに悪くなるのか、わかりません。

誹謗中傷を受けたときのツラい気持ちは、家族や友人の存在による優しさと、こうしたマンガや書籍・経験者のアドバイスなどによる知識で和らげられます。後者のために、本書を読んでおくことをほんとにお勧めしたい。心底そう思います。

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