将棋 書評

将棋の森内竜王・羽生世代に見る世代論。アラフォーが最強 【書評:覆す力】

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現在の将棋界は、40台前半の「羽生世代」と言われる世代が覇権を握っています。プロの将棋界には7つのタイトルがあり、そのうち4つを44歳の羽生善治先生が、1つを2014/10/10に44歳となる、羽生先生と同い年の森内俊之先生が保持しています。

残りの2つを、現在30歳の渡辺明先生が保持しています。将棋界でも二大タイトルと言われる竜王は森内先生が、名人は羽生先生が保持している通り、羽生世代が業界のトップでいることは間違いありません。

また、タイトルホルダー以外でも、いわゆるアラフォーの棋士の活躍は大きく、若手の大きすぎる壁として立ちはだかり続けています。

ではなぜ、将棋界でアラフォーが強いのか。その秘密を森内俊之先生が著書で語っておられました。

将棋に限らず大切なこと

今年の春に羽生先生に名人位を奪われこそしたが、森内先生は、竜王・名人という将棋界で最も大切な二つのタイトルホルダーでした。

将棋は頭脳のスポーツなので、肉体のスポーツより体のピークは遅いはず。そして、理論上は運の要素が限りなく少ないゲームなので実力がモノを言うはずですが、著者はこう語っています。

将棋に限らず 、プロとして長く活躍するためには 、心技体が充実していなければならないだろう 。だが 、それは最低限の必要条件であり 、十分条件ではない 。心技体のすべてが完全な状態で 、そのうえで 、さらに運や巡り合わせに恵まれていなければ 、トップ棋士の中で戦い続けることはできない 。

さらに運や巡り合わせが必要。
うむむ。やはり、勝負の外に勝負があるんですね。
こういう要素は、頭の周りが早いだけではトップを取りきれない何かを予感させます。

森内先生と羽生先生

チャンピオンとエースが異なるケース、あります。
森内先生が竜王・名人だった頃、将棋界のチャンピオンは森内先生でした。
でも、一般に知られる存在を含めて考えた時、エースは羽生先生どっあと言えるでしょう。

本書は森内先生の羽生先生に対するラブレターじゃないか、と思われるくらいの羽生先生に対するコメントが書かれておりますが、子供時分からの付き合いで友人でもある羽生先生がスターダムを駆け上がる様を横で見ていた森内先生は、次のように語っています。

それまで友人だと思っていた羽生さんが 、 〝特別な棋士 〟になっていくのを眺めているのは 、不思議な気分だった 。 「いつか 、自分も 」そんな気持ちがふつふつと湧いてきた 。まだ力に差はあるものの 、対局すれば勝つこともある 。 「いつか羽生さんと大きな舞台で戦いたい 」羽生さんの活躍は 、私の闘志に火をつけてくれた 。

なんという健全なライバル心。
軽い嫉妬。
目標。
自負・自信。
冷静な強弱の分析。
これらが上手にミックスした気持ちです。

アナログとデジタル

さて、このように切磋琢磨している森内先生と羽生先生らの羽生世代。羽生先生が19歳で竜王を奪取して以来この世代は猛威をふるい続けています。もう20年以上。

その秘密は何なのか。まず、将棋界の世代交代がここで行われたことに言及します。

以前 、先崎さんが雑誌の記事で 、羽生さんや私などのいわゆる 〝羽生世代 〟がインパクトを与えたのは 、それまで文系が主流だった将棋界に 、論理的思考を得意とする理系が入ってきたからだと書かれていたが 、この説には納得がいく 。私自身 、自分は理系の人間だと思うし 、羽生さんも同じタイプに思える 。この一九九〇年代半ばは 、性質が異なる二つの将棋観が拮抗し 、融合していった時期でもあった 。人間同士が魂をぶつけ合い 、互いの棋力を競い合う文系の将棋は 、棋士本位で 、人間味あふれる昭和のアナログな将棋だ 。そこには 、非論理的なこともたくさんあったが 、非論理の中の論理のようなものもあった 。対する理系の将棋は 、デ ータに基づいて作戦を立て 、いったん優勢になれば 、勝つ確率の最も高い手を追求していく 。棋譜本位で 、情報分析と論理的思考に基づくデジタルな将棋だ 。

少し長い引用で申し訳ないです。
将棋の指し手の記録のことを棋譜と言いますが、これがパソコンで検索できるようになり、論理的なゲームとしてプロ間でも知識が占める量がとても大きくなりました。
その時代の恩恵をもろに受けて躍進しているのが羽生先生以降の時代であると思います。

でもそれだけが理由なら、羽生世代は今の若い人たちに駆逐されていなければおかしいわけですよね。
なぜ20年以上にわたってトップを張り続けられているのでしょうか。

この世代がアナログとデジタル 、両方の時代の将棋を知っているということが理由なのではないかと考えている 。

答えはこの一言に集約されていると思います。

羽生世代は、前の世代を越えるために、森内先生のおっしゃるアナログ思考な先輩棋士を越えてきました。その対戦の中で、アナログ世代の強さ、素晴らしさを身をもって体感しているでしょう。

一方、今の若手世代はデジタル思考な将棋の勉強に慣れているものの、人と人の勝負の経験は羽生世代にはるかに劣ります。

勝負術の幅の広さ、経験の豊かさが、勉強量が多少劣ったとしてもそれをはるかに凌駕しているのではないかと思うのです。

これは、僕らにも言える

以前、僕はシステムエンジニアでした。
汎用機時代の終盤でゴンピューターを学び、コマンドラインで機器を操作し、少ないメモリーをやりくりして必要な機能に絞って稼働させる工夫をずっとずっとしてきました。

アルゴリズムの最適化を考えなければ処理も遅すぎて話にならない、そんな時代を過ごしてきたのです。

今の潤沢なハードウェアを使ってパワフルに演算できる時代になると、多少の処理の非効率さや冗長さは無視できることもあります。

前の世代に得てきた感覚が通用しない時代になりつつもあります。
さらに、イマドキのシステムの設計・開発理論を学び、実践し、応用していくにはたゆまない努力も必要。
やはり、新たなモノを吸収し続けられる若い方が技術習得に有利である点は否めません。

それでも、人が陥りがちな間違いや運用ルールの決定など、昔の経験があることで事故を未然に防げたり効率よくしたり、担当者の関係を円滑に輪回せる知識・智恵を前の世代の人は持っています。

今、それらの両方の感覚を持っているのは、僕を含めたアラフォー世代ではないか、と思えなくもないのです。

業界によって世代の定義にズレはありますけれど、過去の経験をうまく生かしつつ新たな技術に取り組める気力・体力も備えている世代があるはずだと思うのです。

判断力は伸びる

森内先生はこう語っています。

記憶力や集中力の衰えはあるものの 、大局観や判断力はむしろ伸びているように感じている

将棋の世界において大局観や判断力が優れていると、具体的には「直感的に、読まなくても良い手を考えの枝から切り落とすことができる」というメリットが生まれます。

このことで、読む力自体が劣ったとしても、正しい手を読み進める時間は増やすことができるかもしれない。
年齢の上昇とともに適切なトレーニングをしてきた人は、大局観や判断力を育てることで、さらなる人間力を鍛えることができそうです。

今からでも遅くない

今からでも遅くない。
僕のようなアラフォーな人々は、これからでも大局観、判断力を育てる訓練を行って、人間力を高めていこう。

そして良い意味で、若い人たちの壁や憧れになっていこう。若い人の成長を喜びつつ、健全なライバル心を持って「まだまだ負けんよ」と踏ん張っていこう。
そうすることで次の天才が生まれ、育ち、良い社会ができていくのだと思いました。

するぷろ for iOS.を使って、iPhone 6 Plusで書いたよ!

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