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【書評「舟を編む」】読むと漢字、言葉、辞書が愛おしくなる【三浦しをん著】

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久しぶりに紙の本を買いたくなりました。しかも、中型辞書。分厚くて紙にぬめり感のあるものがいい。読了後はじめに思ったことが、これでした。辞書作りに適性を見いだされた編集者を主人公にした、人と人が、人と言葉が真剣に向き合う物語でした。登場人物がお互いに不足を補い合い、丹念に熱心に辞書という大きな書籍を創り上げていく様が素敵に描かれていましたよ。

自分がいかに言葉を雑に扱っていたか、言葉を知らないかを実感してしまったのが辛い。もっと大切にしたいと思って感想を残しておくことにします。

小説・映画・アニメ・コミカライズされている『舟を編む』

▼小説版。全てはここからです。そんなに長くなく一気読みも可能

舟を編む は2009年から雑誌連載が始まり2011年に単行本発売。その後、2013年には松田龍平さん主演で映画化され、2016年にはアニメ化、2017年にはコミカライズされた作品です。

出版社の営業部から辞書編集部へ異動になった(物語登場時)27歳の馬締光也が監修の国語学者をはじめとしたスタッフと十数年にわたり辞書を編纂。完成までの道のりを描いています。

辞書作りの面白さ・難しさに加え、必要な根気強さや発想の柔らかさを示しつつ、生き物である言葉と人間の関係を興味深く伝えてくれました。

6~7割ほどある前半部分では馬締が辞書編集部へ異動してからしばらくの時間を、3~4割ほどある後半部分は12、3年(原作やアニメなどで異なる)後に編纂した辞書「大渡海」が発売になる時間を舞台とした構成になっています。

馬締も出世し、人間模様も変わってきますが、馬締の言葉に対する探究心や愛情は何ら変わることなく、それが僕にもビッシビシ伝わってくるものでした。

『舟を編む』のキーワードは「右」「西行」「愛」

▼映画版。松田龍平さん、小林薫さん、加藤剛さん、オダギリジョーさん、宮崎あおいさん。みんな素敵。

言葉の持つ力、言葉の面白さは、この物語の中では「右」「西行」「愛」という三つのキーワードで表されています。序盤に出てくる「右」では馬締の適性が、中盤に出てくる「西行」では馬締と途中で営業部に異動になる西岡との感性の違いによる取り上げ方が、終盤に出てくる「愛」では言葉が生き物であることが、それぞれ分かります。

言語オタク的な感性を持ち冗談の通じなさそうな馬締と、一見チャラい性格を持ちながらも柔らかい感性で言葉を捉えられる西岡がお互いを尊重しながら西行について語る。ここは残念ながら映画版ではカットされていますが、この作品のとっても重要なエピソードになっているんです。

どう分かるのかはぜひ作品を見て頂きたいですね。キーワードを3つ確認するならば小説・コミック版で楽しんでくださいな。「西行」の下りは映画版にはなく「愛」の下りはアニメ版にはありません。

『舟を編む』の根底に流れる信頼と補完

▼コミックの上下巻。一番読みやすいかも。

根底に流れているのは、言葉という広大な海を渡るための辞書という舟を、得意分野の異なる人々が力を合わせて作る美しさでした。

監修をしている言語学者にはない若い言葉のセンスは西岡や後半から登場する岸辺がサポートし、情熱を持ってハードな作業に向き合い続けられる体力と気力は馬締が持っています。

キーワードの章でも出てきた馬締と西岡のコンビは、それを最も端的に表したものだと言えるでしょう。

小説も、コミックも、アニメも、映画も、すべて素晴らしい『舟を編む』

▼Amazonのプライムビデオで見るならこちらを。上がアニメ、下が映画

すべて一通り観ました。

人間関係の描写が最も細かい小説版。人気作品「昭和元禄落語心中」の雲田はるこさんが描き人物の魅力の表現に磨きがかかったコミック版。岡崎体育さんのオープニング曲「潮風」・Leolaさんのエンディング曲「I & I」が素晴らしく、馬締の声を担当した櫻井孝宏さんの表現力が絶品なアニメ版。松田龍平さん・小林薫さんといった俳優のしっとりとした演技が光る映画版。それぞれ甲乙付けがたい良さがあります。

ざっと全体の雰囲気を知るなら、コミック版から入るのがオススメです。小説もそれほど長いものではありませんが、全11話のアニメ版を全て観るのと同じくらいの時間はかかるかもしれません。

でも、馬締と西岡の心を全て感じ取りたかったら、小説版をしっかり読んで欲しいなあ。西岡、チャラいんだけれど情があって熱い人なんですよ。その良さが一番描かれているのは、小説版ですから。あ、あと、小説版には読者みんなが気になる馬締のあの文章の解説が入っています。これは作品を気に入った人なら見逃せませんね。

いずれにしても地に足の着いた誠実な作品です。

子どもの頃は分からない言葉があって親に聞くと

「辞書で調べなさい」

と言われました。広辞苑を引っ張り出し、指の腹で素早くページをめくったときの、辞書特有のペラリとした音やあの指触りは、大人になって電子辞書やWebで言葉を調べるようになってから縁遠いものになってしまいました。

一通り見終えた後、言葉・漢字・辞書といった存在がとても愛おしくなってきました。

どの『舟を編む』を観ても、手元に辞書だけは製本されたものを置いておくのも良いなあと思えるようになるんじゃないかしら。最近、第四版が出た大辞林なんて買ってもいいのかもしれないな。今はそう思っています。

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