趣味で使うカメラでは「より美しい写真を撮りたい」という欲求が最も強いものですが、仕事で使うカメラには「失敗したくない」「トラブルで画像を失いたくない」という守備的な欲求も強くあるものです。そうした守備的な欲求を満たせる機能・性能をご紹介します。
取材時に撮影もするライターは少なくありません。Webの時代になって記事数が爆発的に増えたことから、すべての取材記事に対して専門のカメラマンをあてがうことができない、という実質的な問題があること。さらにカメラの性能が上がり、写真のプロでなくてもそこそこの写真を得られるようになったことが要因だろうと個人的には感じています。
では、ライターはどんなカメラを使えば良いのか。取材・執筆がメイン業務のライターが取材時に撮影することを前提にし、
- 撮影トラブルが起きにくい(トラブルが起きてもリカバーしやすい)
- 撮影から納品までの作業がしやすい
を意識した性能・機能を考え、それに対応したカメラをご紹介できればと思っています。記事の特性上カメラのその他の機能には言及しませんが、おおむね「この価格帯以上の最近のカメラであれば写真の画質でメディアからNGが出るようなことはないだろう」という前提で省略しています。
本来求めるカメラの機能・性能はいろいろあるでしょうから、それに付随する情報として捉えてください。
また、私の作業環境上、Windowsパソコン・Andoroidを日常使っている前提でモノ選びをしていることは前提としてご理解ください。
~ 目次 ~
USB充電・給電機能がある
簡単に言えば、充電はカメラの電源を切っている間に電池の容量を貯める機能、給電は撮影中にバッテリーなどからカメラへ電力を供給する機能のことです。
充電・給電をできる機能があるカメラにしておくと、
- 前の日にうっかり充電をし忘れた
- 取材がはしごになり、1件目の取材でカメラのバッテリーを酷使してしまいバッテリーの残容量が少なくなった
といったときに撮影できなくなるトラブルを軽減できます。現場への移動中や撮影中に電力を供給できるようになるため、撮影を継続できる可能性がぐっと高まります。
僕が今使っているLUMIX DC-S5の仕様表から該当部分の表示を取り出してみます。
ポイントはUSBケーブルの形状と、USB充電/給電という表記です。USBケーブルの形状がType-Cであれば、同じタイプのコネクターのスマートフォンを充電したり、USBコネクターで充電できるタイプのノートパソコンやタブレットを充電したりする際に使うケーブル・モバイルバッテリーと共有できるので、荷物をコンパクトにできます。
今カメラを買うなら、仮に中古を買うにしても、USB Type-Cのコネクターを備えるカメラを買うと良いと思います。
USBから充電ができるカメラであれば、宿泊を伴う取材のときに、宿泊先で充電するのも簡単です。パソコンやスマートフォンを充電するのと同じやり方でカメラも充電できるので楽ですね。
高速充電やデータ転送ができるUSB Type-Cのケーブルと、対応したモバイルバッテリーを持っていると取材が安心できますね。
カメラやバッテリーの形状によっては、このようなL字型のコネクターのUSBケーブルが便利なケースもあります。
モバイルバッテリーの中には、コンセントに挿してバッテリー自体を充電しながらUSB充電器になるものもあります。こうした製品を使うと、荷物をもう一つ減らせます。
なお、希にバッテリートラブルの中で、調子の悪いバッテリーを挿入していることがトラブルの理由になるケースもあります。USBで充電できるかどうかにかかわらず、予備バッテリーを一個持っておくと更に安心です。
USBマスストレージ機能がある
撮影した写真をパソコンに取り込む際、どのような手順を踏むか考えてみると
- パソコンにカードリーダーを接続し(あるいは、パソコンに内蔵されているカードリーダーを使い)、SDカードなどを挿入してデータを転送
- カメラをWi-Fi接続してクラウドに画像転送
なども考えられますが、カメラとパソコンを直接USBで接続してカメラ内のSDカードをパソコンから参照できるようになれば、パソコンへの取り込みが簡単になります。USBケーブルは充電とデータ転送に対応したモノにすれば、充電のためのケーブルとデータ転送のためのケーブルを共通化できるので余計な荷物が増えることがありませんね。
また、メモリカードをカメラから抜かずにデータのやりとりができることになるため、うっかりカードリーダーにメモリカードを挿したまま、カメラを持ちだしてしまうトラブルが避けられます。予備のカードを持っている人はそれでもトラブル回避はできますが、カードをカメラから抜かない運用をしていれば、そのトラブルに遭遇する可能性はゼロです。
カメラのSDカード・パソコンのディスク容量ともに余裕がある場合には、両方にデータを持っておくことで、万が一の事故にも対応しやすくなります。例えば電車にカメラ(あるいはパソコン)を忘れてしまった、といった場合にも、もう一方のデータをつかって納品できます。
LUMIX DC-S5M2の取り扱い説明書のPDF版の、「パソコンに画像を取り込む」ページではこの説明がされています。
この機能に対応しているかどうかは、カメラの仕様表などで
USBマスストレージクラスに対応しているデジタルカメラ
であるかどうかを調べれば分かります。もっとも、最近は多くのカメラがUSBマスストレージクラスに対応しているとは思います。
僕の手元にある機種の例ですと、RICOHのGR IIIxというカメラは、パソコンからカメラ内のSDカード情報を確認でき、データのコピーができます。が、カメラ内のSDカードのデータをパソコンのエクスプローラーから削除することはできません。
LUMIX S5ではカメラ内のSDカードのデータをパソコンから削除できます。
メモリカードスロットがダブル
1台のカメラに、メモリカードスロットが2つついている機種があります。そして、多くは撮影ごとに、両方のSDカードに同じ画像データを保持してくれる機能のあるカメラがあります。こうしたカメラを使うと、何らかの理由でメモリカードに障害が出た際にももう一枚のカードがデータを救ってくれることになります。
ヘタクソだろうが何だろうが、その場で撮影した画像を納品できるかどうかはとても重要なポイントであり、カードスロットが2つあるカメラは撮影時の安心感をおおいに向上させてくれるでしょう。
多くのケースにおいて
高信頼性な1枚のSDカードが故障する率よりも、普通レベルの2枚のSDカードが同時に故障する率の方が低い
と考えているので、SDカードを2枚挿しできる安心感は相当なものです。何なら、高信頼性のSDカードを2枚使うのが最も安心感が高いです。
僕が今使っているLUMIX DC-S5の仕様表から該当部分の表示を取り出してみます。
さらに、カメラの商品説明における信頼性ポイントの説明でも、SDカードのダブルスロットについての説明があります。
取材の際には、インタビューなどを行なった後に撮影のための時間を設けるケースがあります。こうした撮影の際には、データ書き込みの速度に関する性能よりも、撮影した画像が確実に保持されているかどうかの方が大切なケースが多いです。仮にどちらかのカードに障害が出ても、もう一方のカードに保存される、デュアルカードスロット対応のカメラが安心です。
なお、僕が使っているLUMIX S5はメモリカードがダブルでマスストレージに対応しているため、パソコンと接続すると、それぞれのカードが別ドライブとして認識されます。片方のカードからデータを吸い出すのですが、削除する際には両方のカードから手動で削除しなければならないのが玉に瑕ではあります。
もっとも、パソコンにデータを吸い上げたあと、カメラのフォーマット機能でカードを初期化すれば、カードの容量を確保した状態で使えます。
これらを満たしていたらどのカメラでも安心して取材にいける
これらの機能を満たしたデジタルカメラを用意しておけば、運用上のトラブルにはとても対応しやすくなります。撮影にどこまで力を入れるか、画像が後から入手できない一発勝負の取材か、などで機能・性能のニーズは更に変わってきますが、こうした機能があればトラブルの可能性は大きく減り、確実に納品できるようになる可能性が更に高まるでしょう。
カメラ自体が壊れた、レンズが壊れた、というケースも想定はできるため、撮影性能の良いコンパクトデジタルカメラやスマートフォンを、予備機として必ず持っていきます。これも
- 多少画質が悪かろうが「撮影できない」ことによる機会損失よりはるかに良い
- いまどきのコンデジやスマホの写真も頑張ってくれている(及第点のレベルは維持している)
という理由からです。
理想は同等の性能を持つカメラ・レンズをもう1組持っていくことですが、さすがにそれは重いしお金がかかりますからね……。プロカメラマンでもないかぎり、そこまでするとやり過ぎ感があるかなと思います。しっかりした撮影費用をいただけるお仕事が増えたタイミングで、より良い予備機を用意しましょう。
各社、これらの機能を備えた機種をラインナップに揃えてあります。記事執筆時点である2023年9月時点で、本体の実税価格が20万円を切る製品を簡単にご紹介します。だいたいですが、紹介した機種よりも後発の・より上位のカメラであれば同様の機能を備えていると思うので、確認してみてください。
LUMIX Sシリーズ(パナソニック)
僕が使っているカメラがLUMIX S5という機種です。当然ですがここに紹介した機能を備えているため購入に至りました。LUMIX Sシリーズはすべて同等の機能を備えています。20万円を切っているのは現行機種の1世代前であるLUMIX S5でしょうか。
LUMIX GHシリーズ(パナソニック)
LUMIXのマイクロフォーサーズカメラでは、GH5M2という機種が10万円台で入手可能です。マイクロフォーサーズはフルサイズよりもセンサーサイズが小さいですが、その分
- 望遠に強い
- 寄れる
- 本体・レンズともにコンパクトで軽い
などのメリットがあります。こうしたメリットの取捨選択をして選ぶと良いでしょう。
OMシリーズ(OM SYSTEM)
もとオリンパスのカメラであるOMシリーズでは、
が対応しています。本体価格が10万円台なのはOM-D E-M1 Mark IIIです。
マイクロフォーサーズのカメラですので。特徴はLUMIX GHシリーズと同様です。
Zシリーズ(NIKON)
NikonのZシリーズも、2020年に発売されたZ5以降のフルサイズ機で、これらの機能を備えています。10万円台で購入できるのは
になります。
EOS Rシリーズ(キヤノン)
Canonのミラーレスカメラの一部でも、これらの機能があります。
APS-Cであれば
EOS R7
が。
フルサイズであれば
EOS R6 Mark II
や、この価格帯以上のハイアマチュアモデルが対応していますね。
そのうち、10万円台で本体が購入できるのはEOS R7です。
α7シリーズ(ソニー)
ソニーのフルサイズミラーレスのα7は、III以降の機種ではすべてその機能を備えています。価格は高めで、ぱっと調べても新品で20万円を切るものがなかったんですよね……。なので番外的位置づけです。予算のある方はどうぞ。
カメラ本体 商品一覧 | デジタル一眼カメラα(アルファ) | ソニー
購入しやすいのはEOS R7、Nikon Z5、LUMIX S5・GH5M2、OM SYSTEM OM-D E-M1 Mark III
予算を潤沢に用意できる人は、もっと上位のカメラから好きなモノをチョイスできます。また、カメラには撮影に大切な機能が他にもさまざまあります。どこを重視するかは人それぞれですし、この記事で挙げた機能が、カメラ選択の最重要ポイントになるとも思いません。
しかし、この機能はカメラを使って取材し、原稿・写真を納品するライターにとっては重要な機能の一つ。このあたりを意識した機種選定はしておきたいところだなあと思います。