書評

谷川俊太郎×松本大洋。絵本「かないくん」を読んで死を考える

2014/08/09

本記事には広告のリンクが含まれます。ご了承ください

20代、30代の前半は友人の結婚式に呼ばれることが多かったものです。まあ、多くの人は同世代の友人・知人が多いでしょうから(何せ「同級生」という存在が多きいですよね)、そういう方も多いのではないでしょうか。

これが50代も過ぎてくると、徐々に友人・知人のお葬式に参列することが多くなるのではないでしょうか。

僕は今40代前半。戦国時代の武田信玄・上杉謙信・織田信長はみな50歳前後でなくなっており(織田信長は殺されましたけれどね・・・)、もう少ししたら死を意識した生活をしても良いお年頃なんですよね。

そんななか、話題になっている絵本「かないくん」を今更ながら購入し読みました。絵本なので表面上の文章量はとても少ないのですが、行間で大変考えさせられました。

谷川俊太郎×松本大洋

数千篇の詩・そして、アニメ「鉄腕アトム」の主題歌の作詞も担当された詩人・谷川俊太郎さん作の絵本。それに画をつけたのは、なんと「竹光侍」「花男」や「ピンポン」「鉄コン筋クリート」の作者の漫画家・松本大洋さんでした。

松本大洋さんが漫画雑誌「モーニング」で連載された「STRAIGHT」という作品を好きになった私は、この本の存在を(今更ですが)知り、さっそく購入いたしました。

記憶が確かなら、投手二人が主人公の野球漫画、アンダースローの天草というキャラが大好きだったんですよね。

画風にオリジナリティを感じ、わくわく読んだ記憶があります。

※余談ですが80年代~90年代の講談社「モーニング」系(「アフタヌーン」含む)ではSTRAIGHTのほかにもBE FREE!、寄生獣、ギャンブルレーサー、逮捕しちゃうぞ、ツヨシしっかりしなさい、ナニワ金融道、風子のいる店、右曲がりのダンディー、ハートカクテルなどなど好きな漫画が多かったです。いわゆる「ジャンプ」「マガジン」といった系列の漫画よりもこっちの方が面白かったなあ。

「書き手」が変わる

後半は命の灯がまもなく消えようとしている絵本作家のおじいちゃんを持つ孫娘。
前半はそのおじいちゃんが語り部となっている絵本でした。

前半はおじいちゃんの絵本的記述になっておりひらがなの文章。

孫娘視点になる後半は、漢字にるびが振られた文章でした。

おじいちゃんと死

おじいちゃんが小学校四年生の時に亡くなった同級生「かないくん」。おじいちゃんが死の宣告を受けてからその同級生を思い出し、自らの職業でもある絵本にそのことを記述していきます。

ただ、自らが死を経験できていない(覚悟はしているけれど)おじいちゃんは

「この絵本をどう終えればいいのかいいか分からない」

と考えています。

「死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない」

重くも軽くも考えたくないけれど大切だし今の自分にわからないこと。それがおじいちゃんにとっての「死」の一面だったのですね

おじいちゃんの感じた「死」、孫娘の感じた「死」、僕が考えさせられた「死」

間もなく死を迎えるおじいちゃんとこれから十分に生きる孫娘、両者の「死」に対する感じ方の差。
そして、誰もが忘れてしまったかのような60年以上前の同級生の死が、自らの死を認識した今思い出されることについてのおじいちゃんの想い。

「死ぬこと」は

  • 消え去ってしまうことなのか
  • 忘れ去られてしまうことなのか
  • 仕舞われてしまうが、ふとしたことで引き出されることなのか
  • 終わりなのか
  • 始まりなのか
  • 分かることなのか
  • わからないことなのか

読み終えてしばらくした今でも考えさせられてしまいます。
絵本です。文章量は本当に少ない。

けれど何でしょう。読んで考えさせられることが読書時間に比べてはるかに多いなんて。

教えてくれる文章ではなく、問いかけられる文章なんだなあ。

松本大洋さん

松本大洋さんの画も空間をとても生かしたもののように感じました。
谷川さんの文章が行間・ページ間・その他の空間空間で僕らの感受性を確かめるかのように、松本さんの画もそこかしこで僕らの感受性に問いかけてくるようなものを感じました。

語り手がおじいさんから孫娘に代わるところで、画のタッチも大きく変わります。
とっても、素敵。

表紙の少年が向いているその先は・・・と思って裏表紙を見てみると
かないくん1

そこには何もありません。これすらも、僕には松本さんからの問いかけのように感じられます。
かないくん2

松本さんが2年かけて描いた、という苦心がよくわかる気がします。
編集さん、よく待ち続けたなあと思います(笑)

答えはわからない。わからないから考え続ける

多分、死んだ後に意識があれば答えが見えてくるのだと思います。
生物的には死ぬので意識というものがなにかはわからないけれど。

多分、みなさんもあっという間に読み終えることができるでしょう。
そして、もし考え始めたら、そんなあっという間の読了時間の何倍も、何十倍も考えさせられるのではないでしょうか。

-書評
-, ,